不安が頭の中でどのように作られるかを解説した本になります。
1章
この章では自分たちが狩猟をしていた時代からの生き残りであること。その狩猟時代は美化されがちだが、実際のところは生き残るが難しい過酷な環境であること、当時であっても日々の生活においてストレスが多かったであろうことが解説されています。
2章
人間になぜ感情があるのかというテーマについて解説した章になります。食べ物を見て食べたいと思うか思わないか、色々な幸福感が持続しないことなどこういった感情は生物として生き残るために発生したり消えたりしていったものと解説しています。自分の感情の動きが苦々しく感じることもありますが、生き残ることが大前提で感情が動くとするなら、ままならないのもそういうものかと感じたりしました。
3章
人間はなぜ不安を感じるのかについて解説された章です。不安障害、パニック障害などがあるが、そもそもどうしてこのような症状がおこるのかを解説されています。その名の通り不安に掻き立てられる症状ではありますが、生物的にはおかしな反応では決してないことと、そうは言っても症状がつらいという人向けに簡単な対処法が解説されています。対処法として、運動と深呼吸が挙げられていて、けして目新しいものではないですが、大事なことだと感じました。それにしても運動の効果の影響は今更ながら多岐にわたると改めて思わされました。
4章
人はなぜうつになるのかというテーマについて脳の役割から考察された仮説について解説された章となります。あくまで著者の説と前置きされたうえで、うつは脳が体を防衛しようとした結果ではないかということでした。ストレスがかかっている状態を体が危ない状況だと脳が認識し、危機から遠ざけるために動きたくなくなるうつ症状が出るのではということです。実際にこの説の正誤はともかくとして、うつの症状は単純な病気ではなく、体の免疫が働いた結果だとする考え方は、自分の脳が異常を起こしているとか壊れたというように考えてしまうよりも希望があってよいのではないかと感じました。
5章
孤独にどのようなリスクがあるのかについて解説された章になります。孤独の悪影響として、飲酒や喫煙と同じレベルで体に悪影響があるという調査結果もあるということで、想像以上に孤独にはリスクがあるということを知って驚きました。また、現代のSNSの存在も、特に十代の若い層に対して孤独感を増大させているというのも興味深い話でした。
6章
運動がなぜうつの症状を和らげるのかについて解説された章になります。こちらの章においても、うつと運動の関係については各種の研究が進んではいるけれど明確な説明ができる状況ではないとされています。ですが、説明はできなくても様々な研究結果は運動はうつの症状の軽減に効果があるという結論になっています。個人的に面白かったのは運動が鬱の軽減によい効果がある可能性が高いのになぜ人間は運動したがらないのかという問いに対して、人間がカロリーを過剰に摂取できるようになったのはほんの最近の話でそれ以前は食べるのに苦労してきた時代の方が圧倒的に長かった。脳はそのような食糧の少ない時代に合わせるように積極的にカロリーを摂取し、カロリー消費を抑えるようになっていった。その結果現代のまったく反対の生活には対応できていないので、いまだにカロリー消費を抑えるような振る舞いをするのだろうという説は納得感もあったし面白いと思いました。
7章
昔と今を比べて今の方が精神状態が悪くなっているのかというテーマで解説された章になります。現代の狩猟民族などが鬱などの症状はあまり見られないなどの研究結果が出ているようです。薬やセラピーなどがあるわけでもなく、また子供の死亡率も高いにも関わらず精神的な健康度は都会の人間より高いのはなぜなのかと疑問を提示されます。狩猟採取民と都会の人間の生活面で違いは多岐にわたりますが、それらの違いを数値などで表すことはできません。ですが、大きいポイントとみなせる部分としては日々の生活における運動量が多いことと、人のつながりが濃密なコミュニティに属していて孤独ではないという点は、運動不足になりがちで孤独を感じる人が多い都会の人との対比としてなかなか考えさせられるものがありました。
8章
自分の症状について宿命じみたものだと考えてしまうことを解説した章になります。現代は遺伝により病気にかかりやすいといったことがわかるようになっていますが、それの弊害として、自分が病気になるのは避けられないと考える人が多いとのことです。なぜこのような思考になってしまうのかは、体についての知識は増えてもそれら知識の「なぜそうなるか」の部分が抜けているためではないかと筆者は言います。なぜの部分の知識がないから遺伝的にこういった疾患になる可能性が高いと言われるだけでそうなるのは避けられないという風に考えてしまいがちということです。ですが、実際にはそのような病気になるのは避けられないのではなくリスクを理解した上で生活を改善していくことで病気になるリスクを低くすることもできるのです。特に「診断名であなたのことがすべて説明がつくわけでもないし、あなたは診断そのものではない」という一文には強く共感しました。
9章
これまでの章で解説されてきた内容を踏まえて幸せについて考察した章となります。筆者からのアドバイスとして幸せを感じるためには幸せを追い求めないこと。幸せになるために幸せを考えない方が良いというのは言われてみれば確かにそうだという感想になります。少なくとも幸せになりたいと考えていたらその時点で幸せではないということになりますし、今が幸せではないと思いながら日々を過ごしていたらむしろ不幸になりそうです。決して物珍しい意見ではないと思いますが、改めて言葉としてみると、この幸福についての章はハッとさせられることが多く読んでいて納得させられました。
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